あなたは狙われている:カルトについて

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カルト問題の現状瓜生 崇 (青少幼年センタースタッフ、京都教区玄照寺)

 「カルト」とは正体を隠した勧誘や不安を煽る教え込みによって信者を獲得し、指導者への絶対忠誠を誓わせ、信者から金銭や労働力の搾取を行い、脱会の自由を認めない団体であると一般的に言われています。昨今こうしたカルトの布教に大きな変化が起きていることをご存じでしょうか。

 去年、大学のカルト勧誘の情報交換を目的にした会議で、とある大学の担当者が、「ここ数年のカルト対策が功を奏して、キャンパスにカルトは見当たらなくなった」と発言しました。何か腑に落ちなかった私はその場であるカルトの元信者に連絡を取り、その大学に信者はいなくなったのかと尋ねました。すると「そこでは今も十数人の信者が積極的に勧誘しています」との回答がすぐにありました。

 この担当者はなぜカルトの活動に気付けなかったのでしょうか。かつてカルトはキャンパスや街頭で声をかけたりして勧誘していました。しかし今はこうした姿が以前ほどは見られません。今どこでカルトは新規メンバーを獲得しているのでしょう。近年最も顕著に増加してきたのはインターネットの中での勧誘です。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をご存じでしょうか。ミクシィやフェイスブックといった名称を出したほうがわかりやすいかも知れません。ネット上で友人と交流できるサービスで、このサービスを使って布教をするカルトがいくつもあります。オウムの後継団体である「アレフ」もそのひとつです。宗教や占い、スピリチュアルに関心の有りそうな人を、教団を隠したヨガ教室に誘い、社会への不信を煽るビデオなども見せて徐々に自分たちの世界に引きこんでゆきます。そしてオウム事件は陰謀だとして自分たちがアレフであると明かし入信を進めるのです。アレフはこのような布教方法で年間約200人の新規信者を獲得したといいます。そしてその7割が35歳以下、オウム事件を知らない青年たちでした。

 こうした勧誘活動をするのはアレフにとどまりません。昨年私のもとに相談に訪れた男子大学生は、自分のSNSのページをしきりに見てきている女性の存在に気づきました。どんな人だろうとその人物のページを見てみると、「みんなでカフェで哲学的な話をしています」「楽しいメンバーばかりです」「あと一週間の命で何をしますか?そんなテーマで話をしています」という文章が並んでいます。大学にうまく溶け込めず悩んでいた彼は、その女性の主催する「カフェミーティング」に参加するようになります。

 最初のうちこそ哲学的な話が中心でしたが、次第に話題の中に仏教用語が多くなり、「死」や「地獄」といった問題が取り上げられ、この問題を解決するには「先生」の話を聞くしか無いと断言されます。彼は誘われるままに巨大な本部の宗教施設に連れられ「先生」の話を聞くことになり、はじめてこれが宗教の勧誘であったことに気付くのです。

 「先生」の著書は今も本屋に山積みにされ、信者の買い支えもあってベストセラーになっており、そのことも彼が信用して本部に話を聞きに行くきっかけになりました。最近脱会したこの教団の信者によると、新規入信者の7割がこうしたネットを経由しての勧誘によるものだったそうです。

 つまり大学がカルトの活動に気づかなかったのは、カルトが活動をやめたからではなく、カルトの勧誘が一対一のインターネットの世界に主軸を移してきたからに他なりませんでした。これでは、どれほどキャンパスを見回っても分かるはずがありません。

 昨年(2012年)の11月にはNHK「あさイチ!」で「スピリチュアル・トラブル」の特集が組まれました。この番組で取り上げられた被害者の主婦は、夫のリストラなどの事柄が続き、雑誌を見て1万円もしない開運ブレスレットを買ったのがきっかけになり、占い師から不安を煽られ除霊やさらなる開運グッズの購入で300万円を費やしました。スピリチュアル・カウンセリングやヒーリングサロン、果ては就職セミナーなど、カルトの勧誘はネットや普通の雑誌の広告にごく普通に存在している時代なのです。

 内実を知っていれば決して深入りしなかったような場所への入り口が、いたるところに口をあけて待っています。こんなものがカルトの勧誘のはずがないと思わないで下さい。そして、少しでも「これはおかしいのではないか」と思ったらすぐに相談するようにして下さい。カルトにハマるのは他人事でもなければ、恥ずかしいことでもありません。誰でも縁があれば入ってしまうところです。そして早めに気づけば必ず抜け出すことができますし、失ったものは取り戻すことが出来るのです。