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聞き続ける人

(藤井 祐介 教学研究所嘱託研究員)

 昨年(二〇一五年)のノーベル文学賞は、スベトラーナ・アレクシエービッチさんが受賞した。アレクシエービッチさんは、ベラルーシで活動するジャーナリストである。日本国内では二〇一一年六月に著書『チェルノブイリの祈り―未来の物語―』(松本妙子訳、岩波現代文庫)が復刊されたことによって、その名を知られるようになった。
 アレクシエービッチさんが作品のなかで用いる手法は、聞き書きである。第二次世界大戦、チェルノブイリ原子力発電所事故、ソビエト連邦崩壊……いずれの作品でも時代の転換点となった出来事が取り上げられている。そういった出来事に直面した人びとの証言が集められて、一つの作品を形づくっている。「証言」の大半は街や農村で生活する人びとから聞いた話である。
 なぜ、アレクシエービッチさんは、人びとの話に耳を傾け、記録するのだろうか。二つの理由があるように思われる。
 一つには、当事者の経験したことが公的な記録として残されることが少ないからである。公的記録では当事者一人一人の個性が消し去られて感情も表現されず、事実が並べられているだけである。また、当事者が自らの経験を忘れ去りたい、記録されたくないという場合もある。『チェルノブイリの祈り』のなかでベラルーシの科学者が「時とともに多くのことが忘れ去られ、永久に消えてしまうことを知っていたから」何でも書き記す習慣が身についた、原発事故直後の様子についても記録した、と語っている(一九六頁)。この話はアレクシエービッチさんが聞き書きを続ける理由とも重なり合う。
 アレクシエービッチさんの作品では、ベラルーシがソビエト連邦の一部であった時代の証言が集められている。ソビエトの政治体制のなかでは人びとが自由に表現したり、当事者の話を記録したりすることは難しかった。
 アレクシエービッチさんが聞き書きを続ける、もう一つの理由は、当事者から話を聞くことによって声なきものの声を聞くことができるからである。戦死した人びと、原発事故の消火作業中に被曝したことが原因で亡くなった人びと……今となっては死者たちから話を聞くことはできない。だが、生き残った人びとの話を通して、死者たちの声を拾い集めることはできる。
 また、動物や植物も自分たちの経験を語ることができない。だが、動物や植物に接した人びとの話を通して、自然界に生きるものたちの声を拾い集めることができる。戦争や原発事故は自然界にも影響をあたえる。『チェルノブイリの祈り』には、原発事故の後、放射能に汚染された森のなかで作業をした男性の証言が記録されている。

森を葬りました。樹木を一メートル半の長さに切り、シートにくるんで放射性廃棄物埋設地に埋めたんです。夜、寝つけなかった。……だれかの詩で読んだことがあるんです、動物は別個の世界の住人なんだと。ぼくは彼らの名前すら知らずに、何十、何百、何千となく殺した。彼らの家、彼らの神秘さを破壊し、ひたすら葬ったのです。(一〇三頁)


 チェルノブイリ原発事故は、一九八六年四月二十六日のことである。事故から今年で三十年になる。

(『ともしび』2016年2月号掲載)

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