宗祖としての親鸞聖人に遇う

真宗開顕の相続

(水谷 英順 教学研究所助手)

昨年の秋、大谷大学のゼミ以来、卒業してからも何かとご指導いただいていた先生が浄土にお還りになられ、いつかは、この世でのお別れが来るとは覚悟しているつもりではあったが、よもやこんなに突然にその日を迎えることになるとは思ってもいなかった。それこそ不覚であったと言うべきだろうか。
先生にお会いして、いつも今自分が取り組んでいる仕事の内容を報告していると、じっと黙って聞いておられる。そして、疑問を感じたり、心にひっかかっていることなどを話し、何かアドバイスをもらおうとお尋ねする。
すると、先生はようやく口をお開きになって、教学研究所の仕事のたいせつさをお話しになり、その労をねぎらってくださる。それから尋ねたことに直接お答えくださることはなく、先生が今お読みになっているお聖教の味わいや、今後取り組もうとされている研究の予定を、実に楽しそうに語ってくださる。公表される前のご講義を私一人のためにお話ししていただいているという至福とともに、このような私のためにという申し訳なさを同時に感じたものである。
そしていつも帰る間際におっしゃるのが、

「人生を通して浄土真宗をあきらかにしていってくださいよ」

という言葉だった。その後、わざわざ門口まで出てこられて、姿が見えなくなるまで合掌のまま見送ってくださった。
先生にお聞きしようと思っていた質問が、逆に生涯を通して自らに問い続けなければならない大きな使命として問い返されてくる。私の問いなど愚痴でしかなかったと気づかせてくださった。私があれこれ考え、どうにかしてやろうという思いがひっくり返されたこと、これこそが、この上もなく大きな応答であり、アドバイスだったと、ようやくわからせてもらえた。
親鸞聖人が一生涯かけてあきらかにしてくださった浄土真宗の開顕という大事業。聖人の足跡を自らが追体験するように全国の遺跡を訪ねて歩き、実証してくださった恩師の細川行信先生。今その先生のお言葉によって、この私がまた浄土真宗をあきらかにする歩みを進めるよう促されている。もう誤魔化すことはできない。浄土真実の念仏の大道を先人に導かれつつ安心して歩んでいきたい。

(『ともしび』2008年3月号掲載)

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