宗派情報 樹心佛地(じゅしんぶっち)

前を訪う(真宗2025年8月号掲載)

樹心佛地
2025.07.25

虫干しあるいは虫払いと言えば、何やら黴やを連想してしまうが、と書けば一変して風雅な趣きさえ感じられる。歳時記によれば、いずれも夏の季題として盛んに俳句に詠まれてきた。夏の土用の頃、晴天の乾燥した日を選び、衣類はじめ書画・宝物のたぐいを風に曝して湿気を取り除き、風入れすることで害虫を追い払う。近年では生活様式の変容で廃れてしまってきているが、寺院によっては古来これを利用し、什物や法宝物の展観を行ってきた歴史もある。

 

このたび真宗教化センター寺院活性化支援室では、新たな支援事業として、寺院の法宝物や文化財等の調査支援を行うという取り組みを開始した。支援の内容としては、寺院で所蔵している御本尊や絵像、御聖教や古文書、什物類等の法宝物や史料を現地で調査し、必要に応じて適切な保存方法の提案や助言を行う。次に調査結果をもとに図録形式の小冊子を作成することで、寺院の教化活動を応援する。寺院の歴史や由来を明らかにすることを通して、住職とともにご門徒が寺院の魅力を再発見することを願いとしている。

 

またこの支援事業は、令和六年能登半島地震によって被災した寺院への復興支援の一助としても活用いただけるほか、全国で解散を余儀なくする寺院にも活用いただくことで、法宝物滅失防止にもつながるという側面もある。 折しも、昨年実施した第八回「教勢調査」の報告書が完成した。七章に及ぶ報告からは教団の現在地としての足元が見て取れる。

 

これを未来に向けて活かしていくことこそが我々の使命であり、それは先達の願いを受け継いでいくということでもあるのだろう。いつの日か寺院が取り組む教化活動に、「門徒と共に寺の虫干し」という文字が上ることを期待する。この作業は先人が仏法繁昌を願い、労苦を惜しまず守り続けてきた寺院の歴史を読み解くことである。「後に生まれん者は前を訪え」と示された宗祖の願いに応えるための、一つの手がかりにもなるだろう。

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